ほっかいどう元気びと

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2018年4月8日のゲスト

中村 眞樹子さん
「NPO法人 札幌カラス研究会」代表理事
中村眞樹子さん

札幌市出身 52歳。
子供の頃から動物好き。人とカラスが共存する方法を模索し、2006年に「札幌カラス研究会」を立ち上げ、2012年にNPO法人に。
約18年間、ほぼ毎日カラスの行動の観察・記録を続け、昨年10月には「なんでそうなの 札幌のカラス」を出版した。

村井裕子のインタビュー後記

中村眞樹子さん 北海道にも春の訪れが感じられる4月。第2週放送の「ほっかいどう元気びと」にお呼びしたのは、「NPO法人 札幌カラス研究会」の代表理事を務める中村眞樹子さん 52歳。カラスと人間との共存を求めて研究してきたその思いの源を伺った。

 中村さんは、昨年、『なんでそうなの 札幌のカラス』(北海道新聞社)という本を出版している。札幌のカラスの生態や行動を長年観察して分かった基礎知識や珍しい行動などをイラストや写真を添えて解説。嫌われ者になりやすいカラスに対する誤解や偏見を取り除き、共にうまくやっていきましょうよ・・・という思いを込めた1冊だ。カラス好きによるカラスと人間のための“カラスハンドブック”。著者である中村さんはご自身を「カラスの代弁者ですから」と言う。
 そもそもは、「とにかく生きものが好き」というところからこの活動は始まったのだそう。野鳥観察が趣味で、公園のカラスの巣で雛が孵るのを心待ちにしていたところ、突然巣が撤去され、理由を調べてみると、「人を襲って危険だから」とのこと。本当にそうなのかという疑問がずっと心に残ったのだそう。
 大方は疑問があっても自分の生活に次第に戻っていくものだが、中村さんは違った。「とにかく生きものが好き」。その生きものが誤解されたまま恨まれたり、やみくもに排除されたりすることは我慢がならない。また、何らかの生きものによって人が困っているのならそれも助けたい。何より“正しく知る”ことで人も生きものも上手に距離を保ちながら共に生きられるのなら、その方法は何だろう・・・という思いを持ち続けたのだという。

中村眞樹子さん 個人的な調査・観察を経て2006年からは「カラス研究会」を立ち上げ、2012年にはNPO法人化にもこぎ着けて、現在、講演会や子供達も楽しめるイベントなどを通じての啓蒙活動の他、全国からのカラスに関する困り事の相談やアドバイスも行っているという。
 困り事が多く発生するのは親烏が雛を守るために過敏になる巣立ちの頃。中村さんは、「巣立ち前線に沿って相談も北上。北海道で巣立ちがピークの6月位までは電話やメール対応の忙しい日々が続く」と話されていた。各自治体では扱い切れない、または役所の範疇ではないカラスに対する困り事相談も多数寄せられてくるそうだが、中村さんは、その最も懸案の“人とカラスとのトラブル” 防止について、簡単な言葉で収録後もこう話されていた。
 「人間がされて嫌なことはカラスにもしないということです」
 誰だって子育てを邪魔されるのは嫌だし、家を監視されたり壊されたりすると腹が立つ。カラスも同じで雛を守りたいだけ。むやみに刺激しないということが大事なのです、と。
 そして、カラスは意地悪をしたり攻撃をしたりした人を覚えていて、次にその人を見かけると襲ってくることもあるという。しかも、その人に“似た人”もその人だと思い込むので、何もしていないのに頭を蹴られたりするのは、以前、自分と似た誰かに嫌なことをされたカラスなのかもしれないそう。1人がカラスに悪さをすれば、他の人にも迷惑がかかる。だから、その初めの1人にならないで・・・ということなのだ。
 “カラスの代弁者”中村さんのお話は録音が止まってからもしばらく続いたが、その心の源にあるのは、「カラス愛」。朝のススキノで顔なじみの一羽がチョンと中村さんの頭をつついて挨拶をしてくれるという話や、札幌のカラスは楽しそうに雪遊びをしているという話などを聞きながら、わかってくれる人がいてよかったね、カラス・・・日暮れ時に何十羽も電線に止まっているのを見ても“不吉な予兆か?”などと思ったりしないからね・・・などと、こちらにも「カラス愛」をお裾分けされた気持ちになったのだった。

 宮沢賢治の初期の作品に『烏(からす)の北斗七星』という、賢治の中では珍しい“戦争”をテーマにした寓話がある。烏の義勇軍が大監督の命令のもと訓練を重ね、“敵”である山烏(やまがらす)と戦うという短い物語。多分、常日頃から田んぼに烏が多数降りていたり、夕方ねぐらに一斉に帰って行ったりしたのを見ていて“艦隊”をイメージしたのだと思うが、中村さんの本を読んだ後で再読してみると、賢治の烏に対する関心の高さや“好きさ加減”が改めてよくわかって、とても興味深かった。
 そもそも、烏にも幾つか種類があるというところ。『烏の北斗七星』では、田んぼの群れの烏と山烏が敵同士。許嫁の烏が烏の大尉に、「山烏は強いのでしょう」と訊き、「うん、目玉がでしゃばって、嘴が細くて、ちょっと見かけは偉そうだよ」と言わせている。
 中村さんの『なんでそうなの 札幌のカラス』によると、「同じカラスでも『ハシボソガラス』と『ハシブトガラス』、そして『ミヤマガラス』『コクマルガラス』という越冬に来る種がある」そうで、それぞれの生態や行動は全く違うという。しかも、縄張り意識は強く、それを持ち続けるのは大変なこと。中村さんも、「一旦奪われた縄張りを取り戻すことはまず不可能。本当に強い者しか生き延びられない過酷な世界なのです」と文中で書いている。同じ烏なのに、田んぼの烏と山烏が敵対し“戦争”するという賢治のお話はそんな生態を踏まえているのだ。
 『烏の北斗七星』は“戦争”を題材にした寓話だが、そこにはすべてのものの命を大切にしようとした賢治らしい願いや葛藤が込められている。烏の艦隊は山烏をやっつけて勝ちどきを上げるが、烏の大尉は、「お腹が空いて山から出てきて、19隻に囲まれて殺された、あの山烏を思い出し」て、新しい泪をこぼす。そして、大監督から“敵”の死骸を葬る許しを請い、北斗七星の神様に向かって、こう呟くのだ。
 「どうか憎むことのできない敵を殺さなくていいように、早くこの世界がなりますように。そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまいません」

 烏を戦時下の人間世界に置き換えたそんな寓話を改めて読み直し、また、「正しく知ることが大事」とカラスと人間との共存を訴え活動する中村さんの話を反芻しながら、人間はいろんなところで偏見からの思い違いや狭量の思い込みをするものであり、そして、時には、酷い間違いをも引き起こす“生きもの”なのだということを改めて考えさせられた。
 今見ているものは果たしてどうなのだろう。思い込まされていることはないと言えるだろうか。考えてみると、そんなことばかりのような気もするし、今まさに目を皿にしなくてはならないことも沢山あるような気もするし。・・・本質を見ることの出来る目を失ってはいけないなと、今つくづく思っている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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