ほっかいどう元気びと

日曜日 あさ9:30-9:50

2019年6月23日のゲスト

栂嶺 レイさん
写真家/医師
栂嶺レイさん

静岡県出身 53歳。
東北大学、広島大学大学院を経て、1997年研究者として札幌医科大学医学部に赴任。その後千歳に移り住む。
非常勤の内科医として働きながら、日本各地に足を運び、古くからの暮らしや民俗・信仰などの取材・撮影を続け、これまでに「知床開拓スピリット」「誰も知らない熊野の遺産」などの著書を出版。
現在は、千歳のアイヌ文化の伝承・保存活動に取り組みながら独自の取材を続けている。

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村井裕子のインタビュー後記

栂嶺レイさん 『ほっかいどう元気びと』、今回のゲストは千歳市在住の写真家で医師の栂嶺(つがみね)レイさん 53歳。サケのふるさと千歳水族館で6月30日まで開かれている「鮭(カムイチェプ)をめぐる千歳のアイヌ文化」は栂嶺さんの取材・撮影によるもの。出身地は静岡県だが1997年から北海道に居を移し、医師の仕事を務めながら各地のいにしえの人々の暮らしや民俗、信仰などを丹念に調べて記録し、著書を通して伝えたい思いを発信している。これまで熊野の民俗や知床の元開拓者の足跡などを追い続けてきた栂嶺さんが、今、熱い眼差しを向けているのが地元・千歳のアイヌの人々の暮らしや文化。地域の人達と共にアイヌ文化の伝承・保存活動に取り組みながら独自の取材を続けるその原動力を伺った。

 栂嶺さんがアイヌ文化や行事を実際に取材し始めたのは札幌から千歳に居を移してから。自分が住んでいる所を内側からきちんと調べなければという思いからだったそうだが、千歳のアイヌ文化を学べるところはないかと調べ始めて伝承保存活動の拠点を訪ねてみたところ、その日がサケを迎える儀式である「アシリチェプノミ」のちょうど2日前。早速、準備から関わって撮影を始め、そこから本格的に取材活動に入っていったのだという。
 アイヌ民族にとって神様であるサケを迎えるための入念な準備の様子、そして、ひとつひとつに意味が込められている儀式の様式、さらにはその後始末までの一連の流れを追う中で栂嶺さん自身が気づいていったのは、アイヌの人々が大切にしてきた考え方や世界観。例えば、自然界のすべてのものに感謝する心。生きものや道具ひとつひとつにも“神”が宿るという考え方。さらには、必要なものを必要なだけ採り皆で共有することを大切にするという、現代の資本主義とは一線を画す“ものの考え方、捉え方”だったという。「アイヌ民族の文化や暮らしが語られる時、どうしても目に見える踊りや衣装などが取り上げられがちだけれど、もっと目に見えない価値観や世界観を伝えていきたい」と栂嶺さんは力説する。

 これまで栂嶺さんが追い続けてきたのは、各地に生きてきた人々の痕跡、目に見えない精神性といったようなもの。テーマは繋がっているのだと語る。沖縄・八重山地方から東北地方、紀伊半島などの民俗行事を取材してきた中で興味を深めていった大きな一つは、“人が神様というものをどう信仰し、どう捉えているのか”ということ。栂嶺さんの言う“神様”というのは、“神様という形に表現された世界観”。「神様が見てるよ」などと言い継がれてきたのは、一神教などの神様とは違い、長い年月の大勢の人の経験則から編み出されたもの。「それは、その地域の人がその地域の長年の暮らしの中で築き上げた価値観、世界観なので、それぞれの地域の人達が日常の中でどう大事なものを扱ってきたのかを取材していくと、地域の人達の生きていく上での指針が見えてくる」と栂嶺さんは語る。これまでの全国各地、そして、自分が住む千歳のアイヌの人々の足跡を辿ることで、今の時代に必要なことも分かってくる。だから知りたいのだという。

栂嶺レイさん お話を聴きながら浮き彫りになってくるのは、一つには“ひとつの視点に縛られない”というものの見方の大切さ。栂嶺さんは、「今のこの世界がすべてだと思って暮らしているが、全然違う考え方や暮らし方があり、全然違う幸福がある」と語っていたが、遠い過去から現代までを辿ってみると、人々が時代を超えて繋いできた世界観、価値観は様々にあり、個々の考え方や生き方はもっと柔軟に選べるのだというメッセージだ。そして、もう一つは栂嶺さんの“人間”に対する汲めども尽きぬ興味。そして、そこから深めていったであろう“人を敬い、尊敬し、尊重したい”という強い思い。熊野でカメラを通して追いかけていたものも、知床の開拓跡地から見つけ出そうとしていたものも、そして、アイヌ民族の暮らしや行事から得たかったものも、すべて根本では繋がっている。“人”が何を思い、何を大切にして営みを重ねてきたのか、それぞれの地域の人間達が様々な“神”を崇めることを通してどういう生き方を糧として命を繋いできたのか、これまでに生きたあらゆる人々への温かい眼差しが込められているのが感じられた。
 収録後、そのように“各地に生きた人々”の思いを掬い上げるライフワークとしての仕事と生業である内科医としての仕事、何か繋がる思いはあるのかを訊いてみる。それは直接繋がりはないですねと答えながらも、やや考えを巡らせる表情をした後で、「医師という仕事もやはり人を見(診)る、人を大事にするという仕事。患者さんの辛さや苦しさをじっくり聴くというのは、取材で人と向き合う姿勢と同じかもしれない」と語っていた。

 私達は今、現代という時間の中、“社会”という大きな枠の中でひたすら前に進んでいるのだが、この足の下には今はもういない人達が確かに暮らしを営み、様々なことを大切にしながらそれぞれの日々を重ねていた事実がある。その足跡に改めて思いを馳せてみると、見えない枠を超えて何か違った“ものさし”が見えてくるかもしれない。ここのところ、“高齢化社会を生きるためには幾ら幾らの金額を用意しなければ生活出来ない”などといったあまりに不用意過ぎる公の発表が憤りや不安を呼び起こしているが、しっかりした政策を求めていく一方で、生きていく上で金銭のみの価値観に縛られ過ぎない何か智慧のようなものをどう深めるかという視点を共有することも同時に大事にしたいとしみじみ思う。いにしえの人達の価値観や世界観、その多様性の豊かさから学べるものはけっして少なくない。
 栂嶺さんが書かれた『知床開拓スピリット』(柏櫓舎)や『誰も知らない熊野の遺産』(ちくま新書)などの渾身の文章を読み、社会や国という大きな枠の中で生きながらも、元々人が持っているはずの智慧や力といった“目には見えないもの大事さ”に思いを馳せつつ、人間が生きる上でほんとうの幸せとは何なのかを思い出していくことの大切さを改めて思った。

(インタビュー後記 村井裕子)

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パーソナリティ

村井裕子 フリーキャスター/声と言葉の自己表現「村井塾」主宰

HBCで18年間勤務の後、フリーとして活動。現在は放送や朗読表現活動の他、札幌や帯広など道内各地で「話し方」「朗読」講座を通し、声と言葉の自己表現による人の魅力作りにも尽力する。

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