ほっかいどう元気びと

日曜日 あさ9:30-9:50

2019年8月25日のゲスト

小林 真也さん
札幌市円山動物園 動物専門員(ゾウの飼育担当)
小林真也さん

札幌市出身 42歳。
高校卒業後札幌市職員となり、2008年に札幌市円山動物園に配属される。
2017年にゾウを担当することになり、アメリカで世界的に著名なゾウ飼育の専門家アラン・ルークロフトさんに指導を受け、現在は、去年11月にミャンマーから贈られた4頭の象の飼育にチームのリーダーとして取り組んでいる。

radikoのタイムフリーを使用すると、放送終了から1週間ほど番組を聴くことができます。

村井裕子のインタビュー後記

小林真也さん 今回の『ほっかいどう元気びと』は、札幌市円山動物園の動物専門員 小林真也さん 42歳。この春から一般公開されたアジアゾウ4頭の飼育を担当するチームのリーダーを務めている。呼称は“飼育員”ではなく“動物専門員”。札幌市では動物園の飼育業務を高度で専門的なものにするために平成29年度から一般技術職として新方式での採用をスタートさせ、動物福祉や希少動物の繁殖などをより充実させようと改革を進めている。配属年数11年の小林さんのようにこれまで“飼育員”だった職員達も、“動物専門員”としての試験を新たに受け、合格者だけが動物の飼育担当になる。動物園が変わるための取り組みはそうやって今まさに進められていて・・・といった話は、例によって収録前後に聞かせていただいたもの。小林さんが試験を受けたのは、ミャンマー連邦共和国から寄贈されるゾウの担当を2016年に打診され、翌年にはアメリカの専門家の元で研修を受けることも決まっていたちょうどそのさなかだったそう。ゾウ担当も初めてという不安と試験に受かるのかという何重ものプレッシャーの中で動物行動学や動物管理学などを日夜勉強したという。・・・そんな話も録音外のバックヤードでのエピソード。動物園に関わる人の体験談やその心情に関しては山ほど聞きたいこともあり、“飼育員”、いや、“動物専門員”ひとりひとりには深いドラマがあるなといくつもの思いに共鳴しながら、放送時間の限られている番組上では今回はゾウ担当のチームリーダーとしての思いに絞って訊かせていただいた。

 円山動物園が今回11年ぶりのゾウ飼育で力を入れているのが、「準間接飼育」という新しい飼育法。これまでは「直接飼育」というゾウのエリアに人が入って世話をする方法、いわゆる“象使い”がゾウを慣れさせて操るといった方法が一般的だったが、ベテラン担当者から引き継ぐ際の難しさなどがあったという。「準間接飼育」は、人間はゾウのエリアには入らず、トレーニング用の柵から耳を出してもらって採血したり、足を出してもらって足回りの管理をしたりするなど、動物にも担当者にも過度な負担がかからずに健康を見守れる飼育法。第一人者であるアメリカのゾウ飼育専門家 アラン・ルークロフトさんは今も2ヶ月に一度は来札し、今後は繁殖のための指導も仰ぐことになるのだそうだが、札幌にやって来て9ヶ月になる4頭は想定以上にトレーニングが進んでいるという嬉しい評価を貰っていますと小林さん。
 動物園の立ち位置、動物に対しての考え方、向き合い方はこの半世紀位の間にも随分変わって来ているが、最大級の哺乳類、しかも、絶滅危惧種のゾウをどのように扱うかを真剣に考えるということはまさにこれからの動物園としての重要なテーマになるのだろう。円山動物園のゾウ舎でもゾウの生態や環境の現状などを知らせる掲示物が様々に工夫されている。遠く離れた場所とは言え、事実をたぐり寄せていくと、先進国の消費生活が気づかぬうちに途上国の森を破壊し、動物を追いやっているという現状にもぶち当たる。さらには、象牙や皮などを狙った密猟の問題にも無関心ではいられないということにも気づかされる。小林さんは、動物園は沢山のことを考えてもらうためのきっかけになる場所であり、ゾウを見てただ「可愛いね」だけではない、一歩踏み込んだところも知って欲しいと話していた。

小林真也さん 市の職員である小林さんは、その大変さや苦労などはことさら口にしない。「出来て当たり前ですから・・・」。ふと漏らした言葉に重責がにじむ。ゾウ4頭の命を預かるその責務を想像するとこちらまで緊張しそうだ。チームは、40代の小林さんをリーダーに、共にアメリカでの研修を受けた50代の動物専門員、他には20代が4人。その1人は今年の4月に入ったばかりの専門員という。これも収録後の聞き取りでの話だが、“動物専門員”制度導入以降は全体的に20代の比率がグンと増えたのだとか。自ずと話はゾウの飼育から若い人達の育成という“もうひとつの任務”についてのテーマに変わっていく。リーダーとしてまずはチーム作りを第一に、対話の出来る雰囲気を作りながら、「成功を体験させる」育成に気を配っていますと小林さん。失礼ながら、ゾウも人間もこれからは支持命令型ではなく、自主的に動き、自分で体験して覚えるほうがのびのびと力が発揮され、関係性もうまくいくのかも・・・と“育成”の共通点に頷く。そしてそのためには、「とにかく、笑って、プラス思考でゾウ飼育を楽しもう」と日々声を掛け合うのだと語り、チームの結束の強さをにじませていた。
 生きものの細かい変化を観察する仕事に力を注ぐ人の話はやはり興味深い。そして、動物と日々向き合っている人の気持ちに共振すると温かい気持ちになることに改めて気づきながら、尽きない話を終えた。

 8月のこのインタビューを前に、ゾウを見て来ようと夫婦で円山動物園を訪れる。気づけば60超の夫婦二人の動物園だが、久々の動物園巡りは新鮮な発見があった。何というか、動物を見る人間が楽しんでいるのは勿論だが、見られている動物達も、案外こちらを見て面白がっているのでは?・・・という仮説が頭の中にいくつも浮かんだことだ。
 ミーアキャットは一匹が必ず切り株の上で見張りをしている。敵がいるはずがないのに真剣にその“任務”に勤しんでいる。「その見張りはあえて“してみせてくれている”のではないか」仮説。エゾシカを二階の室内からガラス越しに見ていた時には数頭が腹這ってのんびりしていたのに、下に降りて外のテラスに出て行くと、おもむろに寄ってきて柵に設置された箱から餌を食べ、「キュッ、キュッ」と甘えた声まで聞かせてくれる。「人が来ると、“食べてみせ、甘えてみせてくれている”のではないか」仮説。その建物を挟んでオオカミ舎があるのがシュールだが、こちらは一階のガラス越しに見物客がいるのが分かると舎から走り出て颯爽とした姿を見せる。「フォトジェニックに写真を“撮らせてくれている” 」仮説。オランウータンの雄はガラス越しの観客(?)の前に座り、チラッチラッとこちらを意識しながら裂いて細くした枝を口に持っていく。楊枝のように歯に詰まったものをせせり始め、人が驚く反応をみると、その楊枝を岩の上にポイッと置いてみせる。「歯の掃除をすると受けるので、“シーハーをしてみせている”のではないか」仮説。
 そして、ゾウだ。屋外エリアをのんびり歩いている。歓声が上がると、ポールに仕込まれている網の中のワラを鼻で突いて巻き取ってみせる。そこでそのまま食べていれば良さそうなものの、ご丁寧にさらに高いポールの方にも歩いて行って、上手に鼻でワラを食べる。「見物人が来ると、“ランウエイをして、得意の鼻で遊んでみせている”のではないか」仮説。・・・もうここまで来ると確信だ。彼ら彼女らは人間を“もてなして”くれている。閉園後、「やれやれ、今日もよく働いた」感を各々醸し出しているのではないかと想像して可笑しくなる。小林さんにゾウの気持ちを確かめると、「ウチの4頭は来た時から物怖じせず、人に興味津々。特に子供が好きみたいです」とのこと。やっぱりそうなんだ。そんなふうに動物も嬉しいという空気を確かめにまた動物園を訪れてみよう。
 野生の生きものとしての特性を最大限に尊重しつつ、それぞれが暮らす環境が保たれていれば、きっと動物の心にも余裕が生まれる。そんな中から味わえる動物園の醍醐味がきっとあるはず。そういう“動物ファースト”が徹底される動物園のさらなる進化を願いながら、日々動物達と向き合う新たな職種の“専門員”の方々に陰ながらのエールを送りたいと思う。

 そして、動物園ほど皆が笑顔になれる場所はない。74年前には切ない記憶も抱えてしまうことになったこの国の動物園。こうやって、大人も子供も、そして動物達も、笑いながら時間を共有出来る幸せが永遠に続きますようにと願う8月だった。

(インタビュー後記 村井裕子)

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パーソナリティ

村井裕子 フリーキャスター/声と言葉の自己表現「村井塾」主宰

HBCで18年間勤務の後、フリーとして活動。現在は放送や朗読表現活動の他、札幌や帯広など道内各地で「話し方」「朗読」講座を通し、声と言葉の自己表現による人の魅力作りにも尽力する。

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