ほっかいどう元気びと

日曜日 あさ9:30-9:50

2019年2月10日のゲスト

河﨑 秋子さん
作家/羊飼い
河﨑秋子さん

別海町出身 39歳。
北海学園大学経済学部を卒業後、ニュージーランドで緬羊飼育技術を約1年間学び、別海町の実家で酪農をしながら緬羊を飼育、出荷。
その傍ら、30歳頃から小説を書き始め、2014年には「颶風の王」が三浦綾子文学賞受賞。2017年に2作目となる「肉弾」を出版し、先日 第21回大藪春彦賞を受賞。
現在も酪農、羊飼い、作家としての日々を送っている。

radikoのタイムフリーを使用すると、放送終了から1週間ほど番組を聴くことができます。

村井裕子のインタビュー後記

河﨑秋子さん 『ほっかいどう元気びと』、お客様は別海町で羊飼いをしながら物語を紡ぐ作家の河﨑秋子さん 39歳。2015年刊行の『颶風の王』は「三浦綾子文学賞」などを受賞。次に出版された『肉弾』が今年1月に「第21回大藪春彦賞」に選ばれたばかり。北海道という舞台で人間と動物の命を軸に読むものの五感を揺さぶる物語を生み出すその人はどんな思いを抱き、何を大切にしながら文章を綴っているのだろう、疾風の如き文章を操る作家の脳の中はどうなっているのだろうと、以前から興味を持っていた。
 私の中の河﨑さんは、プロフィール写真で公表されている右脇にサフォーク種の子羊を抱え、射るように前を見据える、まさに“羊飼いのプロ”といった佇まいのハードボイルドな女性。媚びや甘えをするのもされるのも苦手な私自身が惹かれる女性像そのものだ。著作の二作品共に野性味に溢れ、自然や命といった大きなものへの恐怖や畏れで息も止まりそうになりながら読んだので、ややもすれば“羊飼いの杖”でも背負って颯爽と現れるのではないか的な(あり得ない・・・)人物像を浮かべていたが、HBCのスタジオに現れた河﨑さんはなんとも柔らかな空気感の持ち主。『肉弾』の登場人物にワイルドで今風の言葉を言わせた同じ人かと思うような丁寧な話し方。そして気さくな心遣いと周りを楽しませるユーモア。そんな、いい“裏切られ方”の和気藹々の中で作家兼羊飼いの日々を訊いていった。

 河﨑さんの毎日はとにかく忙しい。ニュージーランドでその技術を学んだという緬羊の世話と出荷は勿論、ご実家の牧場の酪農従業員としての仕事が早朝から夜まで続く。書く時間をどう工夫しているのかと訊くと、「寝ないことです」ととんでもないことをさらりと言う。構想は日中の単純作業の時にも考えるが、途中でメモすることはしない。「メモ帳をポケットに入れてそのまま洗濯しそうだし、羊に食べられるから」。頭の中に浮かばせておいて、机に向かった時に一気に書くのだという。忘れてしまうものはそれだけのこと。いざ筆を進め、登場人物や動物が勝手に動き出したり暴れたりして、思わぬ方向へ向かうのも面白いという。
 河﨑さんの小説には様々なテーマが織り交ぜられ、沢山のキーワードが見え隠れする。「北海道」は勿論、「開拓」「自然の脅威」「人間と動物」「命」、そして、「人間がやって来たことへのアンチテーゼ」なども。この時代に何を書いていきたいかと問いかけると、「生きものとしての人間をどう書くかというのが書き始めた時からの柱である」ということ。そして、「自然の中で人間が生活を始めることになる“開拓”や、“動物との軋轢”が書きたいものだったが、今後はさらに、作業中思い浮かんでいることが違う柱となって全く違う方向性で書いていくこともあると思う」とのこと。
 書きたいこと、書くべきことが山ほどあり、頭の中には沢山の構想が浮かんでいるに違いない。時間をやりくりする日々で“渇望していること”は何ですかと思わず訊いてみると、即座に、「本を読む時間や映画を観る時間。人に会って話も訊きたい」とのこと。“インプットへの渇望?” という私の反応に対して大きく頷く。より良いものをアウトプットするためのインプット。寝る時間を削って書いているという毎日の中、表現のためのインプットの時間が喉から手が出るほど欲しいのだという思いが痛いほど伝わってきた。
 別海の酪農家に生まれ育ち、大学で経済を、海外で綿羊飼育技術を学んだ後に羊飼いを生業にしているというその経験が小説家としての河﨑さんの土台になっているのは本を読んでも明らか。そのベースの上に今後どんなプラスアルファがなされていくのだろう。第一次産業従事者としての経験則の上にさらなるインプットによって“肉付け”される物語はどんなテーマなのか。・・・道民としても是非読んでみたいと今後が益々楽しみになる。

河﨑秋子さん その、河﨑さんの“渇望”が尚も伝わってきたのは収録後さらにいろいろな話を交わしていた時。この『ほっかいどう元気びと』がすでに410人を超え、今、私自身、書きためた「インタビュー後記」を1からファイリングし直して、人の中の力の分析、体系化をしていきたいと話すと、河﨑さんの目にぐっと力が入り、「それ、すごいです! 400人もの人の話を聴けるなんて・・・村井さん、小説書けますよ!」との言葉。あ、いえ・・・あははは、小説は河﨑さんにお任せします・・・と答えつつ、そういう素晴らしい“宝”を8年の歳月の中でいただいて来たのだという番組の重みを河﨑さんの言葉で改めて噛みしめる。と同時に、今、「新進気鋭の作家」と呼ばれるこの才能溢れる女性は、真剣に“人間”というものをもっともっと分かりたいのだ、日々の暮らしを紡ぐ市井の人達の“生の声”を自分で訊くことを渇望し、それを小説に落とし込みたいのだという、そんな強い思いを感じたやりとりでもあった。
 さらにこれから書いていきたいものとして、こんな表現も。
 「人様の価値観なり脳みそのストックを攪拌するような物語です」
 インターネット時代の特徴である1つの考えに固まりやすい共有感覚や同調圧力。その、簡単に流されてしまいがちな時代の中で、価値観を根底から揺さぶるような物語を掘り起こしていきたいのだ、と。

 “今大切なものは何か”という問いを常に忘れてはならないという思いで2011年春からこの番組に向き合ってきたが、河﨑さんとのインタビュー後、腑に落ちたことがある。
 時代によって“大切にされてきたこと”は様々に変化している。戦後、資本主義の真っ只中では「モノ」「カネ」への渇望があり、さらにIT時代に入って「情報」への渇望で様々なものが尚ももてはやされて来たが、そういう外からの何かに“踊らされる”ものではない確かなことを内側に求めているのがまさに今なのではないかということだ。誰かがいいと言ったからとか、昔から常識だから・・・ではない個々が自分の感性と考えで選び取るもの。400人を超える『元気びと』達は、分野を問わずまさしくそれぞれの取り組みを自分の発想で生み出し、悩みつつも他の人がやっていないことに嬉々としてチャレンジしている人達ばかり。人が言うからではなく、自分がこうしたいからという“自分軸”の取り組みそのものだ。
 2011年以降の400人の“サンプル”から気づくのは、人の心が求めるものの確かな変化。とは言え、大きな枠組みがそこに気づいていない。「モノやカネ」の“ものさし”は大枠ではなかなか変われない。価値観のせめぎ合いで齟齬が起こり、いろいろなものが軋んでいる過渡期のようにも見える。河﨑さんが言うように、この時代に必要なのはまさに「価値観や脳みそのストックの攪拌」作業なのだろう。「あなたのその価値観は誰のもの? その考えはほんとうに自分がやりたいことなの? 」とダイナミックに掻き交ぜる作業。個々がそれぞれにそんな問いかけをしていくことでその先の何かが大きく変わっていくのではないか。
 そして、そんな“攪拌”を促すのに最適なのはやはり開拓魂を遺伝子に持つ北海道だ。例えば作家が物語によって人の心に揺さぶりをかけるように、それぞれの取り組みによって変化を巻き起こせて行けたらどんな面白い未来が待っているだろう。
 そんな視点でさらに人の思いを聴かせて貰おうと、大事なきっかけをいただいたようなインタビューだった。

(インタビュー後記 村井裕子)

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パーソナリティ

村井裕子 フリーキャスター/声と言葉の自己表現「村井塾」主宰

HBCで18年間勤務の後、フリーとして活動。現在は放送や朗読表現活動の他、札幌や帯広など道内各地で「話し方」「朗読」講座を通し、声と言葉の自己表現による人の魅力作りにも尽力する。

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